石堂動物病院

院長のひとりごと

イメージ

バックナンバー

2009年 08月

2009.8.20(木)

先日、こんな新聞記事が出ていましたが…

先日、こんな新聞記事が出ていましたが…、
さてさて、ほんとに猫から人へ移る怖い感染症なのでしょうか?
獣医学分野の見識者の意見が出ていませんが…、

この記事の内容に関して、私の獣医師仲間で情報交換がこっそりとありました。簡単にその内容をお知らせしましょうね。

イギリスの家庭で飼われている猫の鼻の分泌物からコリネバクテリウム・ウルセランスという細菌が分離された。そしてこの細菌は人から分離されたコリネバクテリウム・ウルセランスと同じものであることが遺伝子学的に確認された。これらの事実からこの細菌は人と猫の感染症を引き起こす共通の病原菌となる可能性を持っている。と言うような内容の論文が2005年に発表されています。

このような論文が存在するので、この新聞記事には「猫から人 感染症」といった、何か猫が悪者であるように誤解されるようなタイトルが付けられたのでしょうか?

また、このコリネバクテリウム・ウルセランスという細菌は牛やラクダの様な家畜、リス、サルなどの野生動物の病原体として古くから報告されています。(と言う事は、猫だけが原因となるわけじゃないってことでは…)

で、この新聞記事内容をしっかり見てみると…
6例の患者さん情報が記載されていますが、猫との接触が確認されているのは3例のみです。猫が原因かも(あくまでも、かもですよ)しれないのは50%です。5番目の患者さんはインコを飼育されていたそうです(国立感染症研究所の情報から)。

そして、鼻からの分泌物をまき散らすような病気の猫を数多く診察している獣医師がこの病気になったという話をまったく聞きません(ここ、重要!)。

獣医学分野の専門科は、「この細菌は猫固有の感染症を引き起こすものではない。何か猫の方に免疫学的な問題があって、人の感染症の病原体である細菌が猫に二次的に感染症を引き起こしているのでは」と考えているみたいです。
また、「猫でも細菌の増殖が確認されているので、多分、人→猫→人→猫の順で回っているのだろう」とも考えているようです。

新聞記事では「猫多数を飼育」とだけ書かれていますが、実際には1番目の女性の方は20頭、4番目の男性は12頭の猫を飼われていました(上記研究所の情報より)。そして6番目の女性は野良猫の愛護派です。これらのことから、多頭飼育のストレスや猫エイズやその他の猫側の何らかの病気によって、猫自身の免疫力が低下して人の病気が猫に移った可能性も充分に考えられます。
多分、こちらの方が考え方としては辻褄が合っていうるように私は思うのですが…。

私は「猫から人に移る感染症」ではないと思っています。
そして、今回の記事のようなケースは非常に稀な出来事だと思います。(実際にこの9年間で6例しか報告されてないのだから)

>記事を書いた方へ、
もう少しいろいろ調べるなり、獣医学分野の方の意見を取材して、記事を書いてくださいよ〜。
そして、一般の方が誤解するような表現や不安を煽るような文章にならないように注意しましょうね!(一流新聞なのだから)

この記事を見て、20数年前に、猫エイズという病気をマスコミが取り上げ、不十分な情報を一般の方に提供した結果、獣医師になったばかりの頃に勤めていた動物病院に「飼っている猫が猫エイズだったら怖いので安楽死してください」みたいな電話がかかって来た事を思い出します。

愛猫家の方々、心配しなくても大丈夫です!

この記事のように猫から人への感染が頻繁に起る怖い病気なら、たぶん獣医師の私が最初に病気になりますから…

↑ページトップへ戻る