要約:11歳9ヶ月齢、雌のマルチーズの右腹側に筋固着を示す腫瘤が認められた。筋層一層を含み摘出し、病理組織検査したところ悪性組織球症の可能性が示された。摘出手術後1ヶ月で再発が見られ病変は潰瘍化を伴い拡大し第93病日に死亡した。その後の免疫組織化学染色による検査では悪性組織球症を示唆する結果ではなかった。本症例は悪性リンパ腫である可能性が考えられるが確定は困難であった。
解説:発表時には病理組織検査や免疫化学染色などの検査を行っても、悪性組織球症か皮膚悪性リンパ腫かの判定が難しかった症例で、複数の病理の先生に診てもらっても診断名が分かれた症例です。
要約:腹部膨満を示す犬2例において、血様腹水を伴う卵巣の腺癌を経験したのでその概要を報告する。腹水中には上皮性腫瘍を疑わせる細胞がシート状に存在していた。卵巣の巨大化は認められなかった。1例は卵巣子宮摘出術後6ヶ月で播種性転移と考えられる胸水症を発し呼吸[フィールド]で死亡した。もう1例は利尿剤、ステロイド投与によって完全な腹水の消失を示したが、次回発情時に腹水症が再発した。卵巣子宮摘出術を実施したが播種性転移巣が認められ、術後1ヶ月で死亡した。
解説:比較的めずらしい雌犬の卵巣腺癌の症例報告です。年齢の若いときに避妊手術を行っておけばこのような腫瘍になることはありません。避妊手術の重要性を再認識した症例報告です。
要約:元気、食欲の廃絶を主訴として来院した猫に腹水貯留による腹部腫大を認め、超音波検査で子宮疾患を認め開腹手術をおこなったところ、病理組織学的検査により大網の悪性中皮腫と診断された。化学療法を考慮していたが第17病日に死の転帰をとった。
解説:悪性中皮腫という猫では非常に珍しい腫瘍症例の報告です。悪性中皮腫の診断は外科手術によって病変部を摘出して病理組織学的検査を行うしか方法がありません。この腫瘍に対しては、残念ながら有効な抗がん剤による治療法の報告はわずかしかありません。
要約:11歳6ヶ月齢、去勢済の雄犬が原因不明の突然の虚脱状態で来院した。諸検査により腹腔内出血が認められたので原因追求と救命のために即時の試験的開腹術を実施した。開腹術によって左腎臓前方にマス様物を確認、この部位からの出血と判断して止血処置をおこなった。しかし、症例は低血圧性ショック状態を示し、術後意識が回復することなく死亡した。術後の病理組織検査にてマスは副腎皮質腺癌でありその破裂が出血の原因と推察された。
解説:副腎腫瘍のために副腎に血腫(血液多量に貯まり腫瘤状になったもの)が作られ、それが突然破裂して虚脱状態を引き起こした非常に稀な状態を示した症例です。
要約:12歳5ヶ月の避妊済みの雑種犬においてB細胞性多中心型リンパ腫・ステージV-aと診断した症例に対して、ADM/L-Asp & Non Predプロトコールで治療を開始した。第8病日に寛解し、ADM合計5回の投与後,約1年間は寛解状態を維持した。背側皮膚に多発性マスの発現を認めリンパ腫(ステージX-b)の再発と判断した。COP療法で再導入し10日目に再寛解を確認した。その後維持プロトコール中の第48週目(336日目)に再々発し、レスキュー療法7日目に突然死した。
解説:化学療法を積極的に行ったことによって腫瘍発症後814日間生存し、そのうち腫瘍病変が認められなかった(寛解)期間が776日であった症例の報告です。抗がん剤による治療を怖がらずに頑張ろうとおもわせてくれた症例でした。
要約:9歳齢の未去勢雄のマルチーズが健康診断で来院した。CBCで白血球増多症が認められた。その後もリンパ球増多症を伴う白血球増多症が続き、臨床経過および血液検査より慢性リンパ性白血病(CLL)と診断した。2年6ヶ月の無治療期間は経過観察とした。その後、国内で入手可能なメルファランを用いたメルファラン/プレドニゾロン療法による化学療法を試み、約1年半コントロールした症例を経験したのでその概要を報告する。
解説:慢性リンパ球性白血病という稀な血液の腫瘍の症例です。ほんとうに化学療法の治療が必要な時期から治療を開始し、報告されている治療成績(平均生存期間452日)を上回る560日という生存期間を得られた症例です。
要約:シーズーの腎形成不全(Renal Dysplasia)は1歳以下で慢性腎不全の症状を示すことが多いと報告されている。今回、4歳9ヶ月齢と5歳6カ月齢のシーズーにおいて高窒素血症を主とする慢性腎不全を示し、剖検において腎形成不全を確認した2症例を経験したので報告する。
解説:シーズーの腎形成不全は遺伝性と考えられる先天性異常で、若齢時より徐々に腎機能を悪化(高窒素血症)させてきたため、その状態に順応しながら成犬まで正常犬と変わらぬ生活を過ごしていたと考えられる症例です。最初は、腎機能検査が悪いのに元気にしていることが不思議でならなかったこと症例です。
要約::5ヶ月齢のミニチュア・シュナウザーにFly-biting(ハエ咬み行動)が認められた。原因追求のための精査の必要性を説明したが、飼い主さんの了解が得られず経過観察とした。その後2年2ヶ月にわたって無治療で観察を続けた。Fly-bitingの行動は激減するも完全に消失することはなかった。第812病日よりFly-bitingは強迫性障害によるものと考え、行動療法による治療を開始することでFly-bitingの行動はさらに減少したので、本症例は強迫性障害であると診断した。
解説:Fly-biting(ハエ咬み行動)はてんかん発作が原因と考えられることが多かったのですが、今回の症例においては動物行動学の専門家のアドバイスを基に行動学の分野からのアプローチ診断を行いました。その結果、強迫性障害と診断できた症例です。行動学の治療分野に興味を持たしてくれた最初の症例です。
解説:当院で僧帽弁の腱索断裂による致死性の肺水腫と診断したマルチーズを、名古屋の心臓外科の専門である茶屋ヶ坂動物病院に紹介し、憎帽弁の再建手術をお願いした症例です。名古屋に向かうときは酸素吸入がなければチアノーゼを示していたものが、手術10日目には病院内を元気に走れるようになっていました。「犬の心臓外科もついにここまでできるようになったか」と思わせた症例でした。
要約:推定16歳の去勢雄の雑種猫が食欲および活動性の低下を主訴として来院した.初診時において,本症例では重度の削痩が認められた.脱水の評価を目的として胸背部の皮膚をつまみあげたところ,皮膚が容易に剥離した.剥離した皮膚片の病理組織検査より,表皮の菲薄化,真皮における膠原線維の高度減少,皮膚付属器における高度の萎縮などが認められたことから,猫の後天性皮膚脆弱症候群と診断した.潜在する基礎疾患を同定するため各種検査を実施したところ,X線検査および超音波検査により胸水の貯留と肝臓における正常構造の消失が認められた.対症療法を実施したが初診日より第16日目に死亡した.死後の剖検ならびに病理組織学的診断により,本症例では肝臓にリンパ腫が認められた.
解説:この病気の発表は珍しく,皮膚のコラーゲンの形態異常がその原因と言われているが,なぜコラーゲン異常が発生するのかは未だにわかっていない.また,腫瘍以外にも多くの疾患が原因となってコラーゲン異常を引き起こすと報告されている.本症例は肝臓のリンパ腫による悪液質がコラーゲン異常を引き起こしたのではなかいと推測された.猫では報告があるが犬では発生報告がないのが不思議です.
要約:症例は雑種猫,避妊済み雌,16歳,体重3.7kg,鼻稜部の皮膚病を主訴に来院.各種皮膚検査を行い細菌性皮膚炎と判断し複数の抗生物質で治療するも治療反応が悪かったので,猫ウイルス検査を実施.結果はFeLV陰性,FIV陽性であった.慢性細菌性皮膚炎を示すFIV感染症のARC期と診断した.猫のストレスを最小限にする目的で長時間作用型抗生物質であるセフォベシンナトリウム(「コンベニア注」)の皮下投与を実施した.さらにFIV感染症に対しての免疫強化・病態進行阻止の目的でネコインターフェロン(「インターキャット」,),10IU/kg,7日間連続経口投与,次の7日間休薬を繰り返す低用量インターフェロン経口投与療法を併用した.セフォベシンナトリウムは皮膚病を完治させることはできなかったが,良好にコントロールスするには有効であったと思われた.低用量インターフェロン経口投与療法は猫に対するストレス負荷も少なく,皮膚病変の再発や悪化も認められず,体重の増加も認められQOLを維持するには充分効果的であったと思われた.
解説:ネコFIV感染症に対して,従来のインターフェロンの投与量よりはるかに少ない投与量を用いてもQOLを維持するには効果的であったことを示した報告です.
要約:今回,食物アレルギーに続発したアトピー性皮膚炎の犬の症例に対して,病歴聴取,除外診断,抗アレルギー療法食の利用,血清IgE測定やリンパ球反応検査などを実施し,痒みの原因を検討した.症例はトイ・プードルと日本テリアのMix,メス,年齢2.5ヵ月齢,体重3.1kgである.前肢および大腿部に皮疹を伴わない痒みを主訴として来院した.各種検査による除外診断後,食物アレルギーを疑いアミノ酸療法食「アミノプロテクトケア」のみで良好にコントロールができたので食物アレルギーと診断した.その後,2歳6ヵ月齢頃より新たな痒みが発現してきた.その原因追求のために血清IgE検査およびリンパ球反応検査を実施し,環境アレルゲンのカビ類(2種類)と食物アレルゲンのジャガイモにIgE値の上昇が認められた.カビ類の暴露がない時期に再度,血清IgE検査を実施しするとカビ類に対するIgE値が陰性になっていた.そして春以降のカビ類の活動時期に合わせるように痒みが再発した.以上の経過から,本症例は生後まもなくから何らかの食物アレルゲンによる食物アレルギーを発症し,その後,環境アレルゲンであるカビ類によるアトピー性皮膚炎を続発したものと診断した.
解説:アレルギー性皮膚疾患の診断,治療において,抗アレルギー療法食および血清IgE検査などを有効に使えば,アレルギーのアレルゲン確定が可能であり,その後の治療にも有効であることを確認出来た症例です.
要約:症例はウエルシュコーギー・ペンブローク,未去勢雄,年齢10歳9ヵ月,体重12.5kg,両後肢不全麻痺で来院.犬種および脊髄圧迫で圧痛を認めないことからDMを疑い,MRI検査およびSOD1遺伝子検査を実施した.MRI検査では第12胸椎〜仙椎において多発性の椎間板ヘルニアを認めたが,両後肢起立・歩行不可能の原因となるものではなかった.SOD1遺伝子には変異が認められた.以上の結果からDMと診断した.治療は自宅での理学療法プログラムの実施による経過観察とし良好に経過していたが,第423病日に突然,呼吸速拍状態,高体温,意識レベルの低下の症状を示し,入院治療するも急死し,死後剖検を実施した.死後剖検では,脊髄全体にわたり白質において様々な程度に変性性病変(白質軸索変性)が認められDMと確定診断した.第1頚髄〜7腰髄まで左右側策において,LFB陽性の髄鞘は減少し好酸性領域が増加していた.特に第1胸髄〜第5腰髄までは側索に加え背索にも病変が見られた.また,肺にはうっ血と水腫が認められ呼吸不全が直接の死因であると考えられた.臨床的には病中期・前半と考えられるが,すでに頚髄全域の側索背側領域に病変が存在していた.
解説:本来,DMの病中期・前半においては死亡する時期ではないが,本症例のように脊髄の病変分布状態においては呼吸機能の悪化が存在し,熱中症などのストレスによって呼吸不全を発症し死亡する可能性を示した症例であった.
要約:13歳1ヵ月の去勢雄の猫が,右後肢足根関節の腫瘤病変を主訴として来院した.約10ヵ月前に他院で同部位の腫瘤切除手術を受けていた.初診時の細胞診では細胞成分は少なく,紡錘形細胞が主体であったので何らかの軟部組織腫瘍と判断した.第6病日に腫瘍摘出術を実施し,病理組織検査では「起源不明の肉腫」と診断された.第68病日に同部位に再発を認めた.完治目的の断脚手術を薦めたが,ご家族の同意を得られず,2回目の腫瘍摘出術を実施し病理組織検査では悪性神経鞘腫瘍が強く疑われた.その後も再発を繰り返し4回目の摘出術時に悪性神経鞘腫瘍と診断された.第432病日に断脚術を実施した.
解説:この腫瘍の存在を知っているかどうかによって迅速な診断が可能であり,適切なインフォームドコンセントを行うにあたってこの腫瘍の病態を理解しておくことが重要である.局所再発を防ぐための断脚術が必要な症例においての,ご家族に対するインフォームドコンセントの難しさを再認識した症例であった.
要約:2.5ヵ月齢,未避妊雌,雑種の子犬において左耳および体表を痒がっているという主訴に対して,各種検査を実施して食物アレルギーと診断した.
その後はアミノ酸療法食による食事療法のみで良好にコントロールできていた.しかし,3歳6ヵ月齢時の強い痒みの再現に対して犬アトピー性皮膚炎の続発を疑って,アレルゲン特異的IgE検査を実施した.その結果から犬アトピー性皮膚炎と仮診断した.その後,リンパ球反応検査やアレルゲン特異的IgEのモニター検査で犬アトピー性皮膚炎の原因は環境アレルゲンのカビ類(アスペルギルス,ペニシリウム)であることが確認された.以上の経過から,本症例を食物アレルギーに犬アトピー性皮膚炎が続発した症例であると診断した.
解説:2012年の獣医学術近畿地区大会に発表した症例であるが,今回はディスカッション用症例として提供した.私個人は血清IgE検査は,正しく使って判断すれば犬アトピー性皮膚炎の診断にも充分な信頼性があると思っているが,皮膚科専門医はそのように思っていないみたいで…今後,血清IgE検査がどのような評価されるのか興味をもって見守りたいと思っている.
要約:腹部の腫脹を主訴に来院したウェルシュ・コーギーにおいて各種検査を実施し,肝臓実質内の巨大嚢胞を確認した.可能な範囲での鑑別診断を行ったが確定診断できず,巨大肝嚢胞と仮診断し経過観察とした.その後,肝臓の巨大嚢胞の破裂を確認し緊急手術を実施したが術中死した.摘出した肝臓病変の病理組織学検査で肝臓の神経内分泌腫瘍(カルチノイド)の可能性が示唆された.犬の神経内分泌腫瘍は神経外胚葉細胞を起源とする犬においては稀な腫瘍である.過去にはカルチノイドと呼ばれていたものである.
解説:肝臓原発性神経内分泌腫瘍(カルチノイド)は報告が少なく,肝臓の巨大嚢胞症との鑑別が難しい疾患と感じた.そして,肝臓原発性腫瘍の類症鑑別リストに加えておくべき疾患のひとつだと考えさせられた疾患である.
要約:多発性嚢胞腎は腎臓に複数の嚢胞が形成され、嚢胞が増えて大きくなることで腎実質を障害する犬において非常に稀な腎疾患である。症例は,4歳齢のイタリアン・グレーハウンド(未去勢オス)において異常な多飲多尿を示した。各種検査結果から「腎性尿崩症」と仮診断し、サイアザイド系利尿剤ヒドロクロロチアジド(1mg/kg,BID)を用いて治療し、約20%の飲水量の減量が得られ、同時に尿量の減量も認められた。初診時より約3年後に自宅で急死したとの連絡があり、同夜に剖検を実施。病理組織学的検査の結果は、両側の腎臓は多発性嚢胞腎であった。以上の結果から、本症例を「多発性嚢胞腎による二次性の腎性尿崩症」と診断した。
解説:多発性嚢胞腎は猫に発生する疾患と言われているが、犬の多飲多尿の鑑別リストに稀な疾患としてこの疾患を認識しておく必要があると思われた。本症例の多尿の機序は、抗利尿ホルモン値が高値でなかった事、および、嚢胞が腎実質領域に存在していた事などから、正常な尿細管の数の減少によって尿の再吸収が妨げられ、その結果、多尿を発生したしたものと考えられる。