避妊/去勢手術を考えよう
動物病院では獣医さんが,大切な家族の一員であるワンちゃん,ねこちゃんに避妊手術や去勢手術をお薦めしています.
「何故,獣医さんが手術を薦めるのか?」
ここでもう一度考えてみましょう.
避妊手術が必要とされる最大の理由は,「メス特有の病気を防ぐため!」です. ワンちゃんの高齢化に伴い,人間同様に卵巣・子宮疾患,乳腺腫瘍が発症する可能性がでてきます.それらの病気を予防する方法のひとつが避妊手術なのです. また,避妊手術を行うことで発情がなくなりますので,発情に伴う出血などのお世話の必要性もなくなります.そして,当然ですが妊娠・出産はできなくなります.
乳腺腫瘍はメスで最も発生の多い腫瘍で,統計学的データでは乳腺にできる腫瘍の約半数が悪性腫瘍の乳腺癌だと言われています.しかし,このデータは大型犬〜超大型犬が多く飼われている海外のデータですので,小型犬が多く飼われている日本の実情には合わないかもしれません.小型犬の飼育が多い日本では,乳腺にできる腫瘍の約30~40%が乳腺癌ではと考えられています.統計学的研究では,乳腺癌発生の危険率は初回の発情前に避妊手術をすると0.05%,2回目の発情前に避妊手術をすると8%,それ以降に手術を実施する26%と報告されています.
この報告からも,適切な時期に避妊手術を受ければ,悪性腫瘍の乳腺癌の予防効果があると言うことが分かります.
その他にも発情から2ヶ月後くらいに外陰部から膿のような分泌物を排泄することで気づかれる子宮に膿が貯まる子宮蓄膿症(右写真)や子宮内膜症のような子宮疾患,異常な発情出血や腹部が異様に腫れてくるなどの症状を示す卵巣の病気(卵巣腫瘍や卵巣嚢腫など)を予防することが可能です.
それでは,適切な手術時期とはいつ頃でしょうか?
繁殖を考えないのであればできるだけはやく手術を実施する方が良いでしょう.
乳腺癌の発生の危険を最小限にするためには初回の発情前が最も良いのですが…,
生後6ヶ月以前という時期ではワンちゃん自体が十分に成長していないように思いますので,全身麻酔の危険性が心配です.そこで,当院では,1回目の発情後に避妊手術を行うことをお薦めしています.
当院での避妊手術は「卵巣摘出術」です.卵巣のみを摘出します.子宮・卵巣の全摘出術より麻酔時間が短くなるメリットがあるのでこの手術法を行っています.卵巣を摘出することで発情はなくなり,女性ホルモンの分泌もなくなるので子宮は萎縮して退化します.卵巣摘出術は子宮・卵巣全摘出術と同じように,卵巣・子宮疾患,乳腺腫瘍の予防効果が十分認められる手術法です.
ワンちゃんの去勢手術の目的は,「オス特有の病気の予防」と「オス独特の問題行動の抑制」のふたつです.性成熟が完成した生後6ヶ月以降に精巣を摘出する去勢手術を実施することが薦められています.去勢手術は避妊手術よりも短時間に終わる比較的簡単な手術です.
オスのワンちゃんにおいては中高齢以降になって発生する精巣腫瘍,前立腺疾患(良性の前立腺肥大),肛門の横の領域が腫れてくる会陰ヘルニア,肛門周辺にできる良性腫瘍などの病気があります.これらの病気は精巣から分泌される男性ホルモンのアンドロジェンが関わっているため,男性ホルモンの分泌をなくす去勢手術を行うことで予防することが可能になります.
男性ホルモンの分泌がなくなりますので,縄張り意識が薄れて家の中での尿マーキング,発情に関連しての人間の腕や足に抱きつくマウンティング(腰を振る仕草),他のオス犬とすぐにケンカをしたりする攻撃的な行動など,ワンちゃんと一緒に生活する上で問題となる行動のいくつかが抑制できる可能性があります.