僧帽弁閉鎖不全症
心臓は全身各部の組織/臓器につながる血管を使って、血液と共に酸素と栄養を供給するするポンプとしての働きをしています。血液の流れは、からだの各部から心臓に戻る血管(静脈系)が集まって心臓の右心房/右心室に流れ込み、酸素の供給を受けるために肺へと流れます。肺で新鮮な酸素の供給を受けた血液は、全身へ血液を送り出すポンプの働きをする左心室へ集まり、全身へとつながる血管(動脈系)へ送り出されて行きます。
「僧帽弁閉鎖不全症」とはポンプの働きをする左心室とその手前の左心房の間に存在する弁(僧帽弁)に異常が起きている弁膜疾患です。正常であれば、左心室がポンプの働きをする時には、この僧帽弁はしっかりと閉じて血液を全身に送り出すことを助けます。しかし、この僧帽弁や僧帽弁と心筋(乳頭筋)を繋ぐ腱索に異常が生じると左心室の収縮期(血液を全身に送り出すポンプの働きをする時)に、この僧帽弁がしっかりと閉じないために(閉鎖不全の状態)、全身へ送り出されるべき血液が左心室から左心房へ逆流します。この時の血液の逆流音が心臓の聴診で発見できる「心雑音」にあたります。
僧帽弁自身の異常としては弁の先端の粘液腫様変性がメインですが、それがなぜ起こるのか?遺伝的要因が関与しているのか?など、まだ、はっきりと分かっていません。僧帽弁に繋がる腱索の病変(腱索の断裂など)は、僧帽弁の病変によって二次的に発生します。
僧帽弁の異常で生じる血液の逆流を治療せずにいると、次第に左心室から左心房へ逆流する血液量が増加して、左心房のサイズが大きくなってきます。さらに進行すると肺から左心房、左心室へと流れる血液の流れがうっ滞して、肺自体に水分が貯まって肺水腫になります。肺水腫になると、咳や呼吸困難などのすぐにわかる症状を示し、命にかかわる危険な状態となります。
すべての犬種に発生する可能性はありますが、好発犬種と言われているのは、トイ・プードル、ミニチュア・シュナウザー、ポメラニアン、マルチーズ、チワワ、コッカー・スパニエル、ペキニーズ、ボストン・テリア、ヨークシャー・テリアなどの小型犬です。キャバリア種は遺伝的要因によってこの病気が発症することが確認されている唯一の犬種です。
オスの方がメスよりも発生率は1.5倍高く、9〜12歳では20〜25%の犬にこの病気が発生すると言われています。
「僧帽弁閉鎖不全症」の初期は、心臓内で血液の逆流が起きているだけで、ほとんど症状は示しません。聴診検査で確認できる心雑音のみが唯一の症状です。この時期に早期発見して、治療を開始することによって病気の進行を遅らせ、できるだけ快適に生活させてあげる事が内科的治療(内科的コントロール)の目的になります。多くの飼主さんが気付く症状としては、
これらの症状に飼主さんが気付いた時は、心臓内の逆流量が増加して、左心房や肺に悪影響を与えている段階にあたり、積極的な治療が必要な時期です。この病気を治療せずに放っておくと、逆流によって進行する心臓拡大による左心不全や不整脈、肺水腫による呼吸困難などによって突然死します。