消化管寄生虫のお話
この寄生虫は北海道でキタキツネへの感染が多いことで有名ですが、犬(まれに猫)にも感染します。成虫になっても体長が2〜3mmとたいへん小さい寄生虫です(右図)。
多包条虫の虫卵は感染したキタキツネや犬の便の中に排泄されます。排泄された虫卵をネズミが経口摂取した後肝臓で幼虫になります。そのネズミをキタキツネや犬が補食することで感染が成立します。
キタキツネや犬に感染後小腸で成虫になりますが、イヌ科の動物(猫も)ではほとんど症状はありません。キタキツネもイヌ科の動物で、虫体がお腹の中に2000匹程度いても平気で症状を示しません。(8000匹程度になるとさすがに下痢を起こしますが…)
北海道に住むキタキツネに多く感染していることが良く知られています。北海道へ動物を連れて旅行に行った際に、ネズミなどを補食した可能性があり、感染が心配な場合は、まず、動物病院に相談しましょう。感染しているかどうかは血液を用いた特殊な検査を行うことで確認できます。感染が確認された場合は駆虫薬で駆虫します。
上記に解説した消化管寄生虫の他にジアルジア、トリコモナス、コクシジウムなどの消化管寄生虫の原虫が存在します。これらの寄生虫は、時に鮮血便、粘液便、慢性の下痢の原因になります。新鮮便を材料とした検便(糞便検査)によって虫体が確認されます。感染経路は感染動物の便との接触ですが、飼育環境が整ってきた都市部では感染率が低下する傾向です。
ズーノーシス(人畜共通感染症)とは、人と犬、猫、小鳥など一緒に生活している動物が共通してかかる感染症のことです。今回は動物(犬、猫)の消化管内の寄生虫が人に移り健康を脅かす可能性のある感染症について少し解説します。
室内や砂場、あるいは動物の毛についた回虫の卵が口から入ることで感染します。犬・猫回虫にとって人間は必ずしも好ましい宿主でないため、幼虫のままで体内を移行します(幼虫移行症)が、ほとんど幼虫は死滅します。しかし、稀に生き残った虫体によって発熱・全身の倦怠感・食欲不振などが起こります。また、脳に達した場合はてんかん発作の原因に、眼に移行した場合は視力障害や失明が起きることもあります。幼児への感染は重症化しやすく、特に注意が必要です。
犬や猫の体毛についたノミをつぶしてその手を洗わずに物を食べたり、室内で繁殖しているノミの幼虫が何らかの拍子で口の中に入ってしまうと感染します。大人は無症状で経過すると言われていますが、幼児に感染した場合は、腹痛や下痢、時には神経症状がでることもあります。小さな子供のいるご家庭では特に注意が必要です。
キタキツネへの寄生で有名な多包条虫(エキノコックス)ですが、感染動物の便に含まれる虫卵が口に入ることで人にも感染します。人への感染後、5~10年は自覚症状がなく、幼虫のまま肝臓内で増殖します。次第に重い肝機能障害を引き起こし、放置すれば血流やリンパ液に乗って肺や脳に転移し90%以上が死に至る怖い病気です。北海道のキタキツネの多くが多包条虫症に感染していると言われていますので、旅先でのキタキツネとの接触には気をつけましょう。
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企画・編集 石堂動物病院