「猫の口内炎」について
「猫の口内炎」(尾側口内炎)の症状がある時には痛みを伴うことが多いため、ドライフードを食べなくなったり、食欲低下が認められます。その他の症状として、多量のよだれ、口臭の悪化、歯茎や口腔粘膜からの出血、口の辺りを触ろうとすると怒る、グルーミングをしなくなるなどがあります。また、強い痛みにより食事中に奇声を発したり、前足で口を気にして引っ掻くような仕草をしたりします。時に、性格が攻撃的になったりすることもあります。
「猫の口内炎」の原因は、まだ、はっきりとわかっていません。奥歯に歯石が重度に付き、その歯石が口頬粘膜に触れる部位に病変が作られることから、長い間、歯石の成分や、そこに潜んでいる歯周病細菌に対する免疫異常(免疫の過剰な反応)が原因と考えられていました。しかし、歯石付着の少ない若い猫にも「猫の口内炎」(尾側口内炎)の症状が見られること、歯周病細菌を殺す抗生物質の投与でも治らないことから、その他の原因の存在が考えられていました。
近年の研究で、歯石や歯周病に関連する細菌の他に猫カリシウイルスの感染による免疫の過剰反応があるとわかってきました。このウイルスは保護された子猫などに「猫カゼ」と呼ばれるくしゃみ、鼻水、結膜炎などの症状を引き起こす猫カリシウイル感染症の原因ウイルスです。細菌やウイルスが歯石/歯肉に隠れ潜んでいる猫に何らかのストレスが引き金となって、突然、発症(症状を示し出す)し、カリシウイルスの存在により病態が持続するようです。多頭飼育によるストレスが発症の原因である可能性が高いとの報告がなされています。
「猫の口内炎」(尾側口内炎)と同じような症状を示すものとしては、歯周病、猫エイズと呼ばれている「猫免疫不全ウイルス感染症」、慢性腎不全に伴う尿毒症や糖尿病があります。
歯周病は、歯の周囲にたまった歯垢や歯石の中の歯周病細菌によって、歯茎などの歯のまわりが炎症を起こす病気です。重度の歯周病、歯肉炎になることで、口内炎をも引き起こしてしまう可能性があります。歯周病は細菌感染症なので抗生物質の投与に反応して症状が軽減しますので、治療反応で鑑別が可能で、麻酔をかけての歯石取りの手術(スケーリング)で治療を行えば治すことができます。
「猫免疫不全ウイルス感染症」は、猫のウイルス検査を行うことで鑑別が可能です。慢性腎不全に伴う尿毒症や糖尿病は、総合的な血液検査で鑑別が可能です。