「猫の口内炎」について
「猫の口内炎」(尾側口内炎)の治療は、内科的治療と外科的治療のふたつです。
内科的治療は、口腔内の免疫異常を抑制することで症状の改善を目指します。ウイルス感染をコントロールするためにステロイド剤が用いられることが多いです。ステロイド剤は抗炎症効果があるため、口腔粘膜の炎症を鎮め、痛みを軽減します。ステロイド投与中は症状の改善が認められても、投与を中止すると再発したり、長期投与によっての糖尿病などの副作用が懸念されます。なので、投与量や投与間隔に注意して継続治療をする必要性があります。
また、ステロイド剤による副作用の発現を抑えるためにインターフェロン製剤の併用治療が行われることもあります。インターフェロン製剤(「インターキャット」)はカリシウイルス感染症の治療薬です。この薬は、ウイルスを直接的に攻撃するのではなく、細胞表面にあるレセプター(受容体)に結合することで、ウイルスの増殖を抑制する抗ウイルス蛋白質を誘導し、猫の体内の細胞をウイルスが住めない状態にすることによって、カリシウイルスの増殖を抑制します。
ステロイド剤とインターフェロン製剤を併用することによって、ステロイドの投与量の減量、投与間隔の延長ができるようであれば副作用のリスクを避けることも可能です。この併用療法は、口腔内病変の再発予防、病態の軽減化を目指す治療法として提言されています。
現時点では、内科的治療は一時的な症状の改善が認められても完治には至らないと考えられていますが、猫の年齢的な問題や、全身麻酔のリスクが高い場合(長時間の外科処置が難しい症例など)、ご家族のご希望などに応じて、そのまま内科を継続していく場合もあります。
歯石取りの手術(スケーリング)や、抗生物質、ステロイド剤、インターフェロン製剤などの投与による内科的治療が試みられていますが、これらの治療法では一時的に症状が収まっても完治しないことが多く、現在のところ、完治が望める治療としては、外科的に全臼歯抜歯(奥歯の全てを抜く)もしくは全顎抜歯(全ての歯を抜く)を行うことが薦められています。外科的抜歯術は、歯垢/歯石の発生場所となる歯の全てを抜歯することで、細菌やウイルスが潜む場所をなくすことによって、症状を消失させ再発を防ぐことを目的としています。
外科的抜歯術は、全身麻酔下で行われ、歯科用レントゲン検査によって歯や周囲の顎骨の状態を把握し適切な抜歯を行い、時には歯肉粘膜の縫合のために顎骨を削り、臼歯歯根部の取り残しの有無を再度歯科用レントゲン検査で確認するという順番で行われます。これらの手技は長時間の全身麻酔と専門性の高い技術を必要とします。ちゃんとした所でトレーニングを受け、歯科用レントゲン装置、歯科専用の機材などを備えた獣医歯科学に専門性を持った動物病院でないと適切な手術ができないかもしれません。
外科的抜歯術を実施した場合、術後の内科治療を併用しても病変が消失して治癒するのに抜歯後数週間〜数年かかり、重度の症例では症状が残ることがあります。全く改善しない症例も約30%存在します。それでも、現時点では外科的抜歯術は猫の口内炎(尾側口内炎)の最も有効な治療法だと言われています。
当院では抜歯術を安全・確実に行うために器具が揃っておりません。なので、外科的抜歯術を希望の方に対しては、歯科専門治療を行う病院を紹介しております。
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