(1)「認知症の予備軍」、「軽度の認知症」と診断された場合には、認知症の発症を予防する(遅らせる)目的での積極的な療法食による食事療法やサプリメント療法を開始します
不飽和脂肪酸(オメガ3脂肪酸)と言われているDHA/EPAや抗酸化物質を含んだ療法食の食事に切り替えます。DHAは脳の神経系に含まれている栄養素で脳の神経細胞の情報伝達をスムーズにする働きがあり、記憶力や行動能力に好影響をもたらすと言われています。また、EPAは高脂血症を予防することで、脳血管を含む血管系の老化防止をするという働きがあると言われています。
[ 推奨される療法食 & サプリメント ]
- ヒルズ社:「サイエンスダイエットPro:健康ガード アクティブシニア」
科学的根拠に裏付けされた抗酸化成分(ビタミンE&C)を含み、免疫力の維持をサポートしている。また遺伝子栄養学をもとに独自の栄養素を組み合わせ、健康な体質/認知機能の維持をサポートしている。
- ピュリナ社「ニューロケア」
特発性てんかん、認知機能不全症に対する療法食です。アルギニン、DHA+EPA、抗酸化成分、ビタミンB群などの栄養成分を含み認知機能の健康をサポートしています。
- 明治アニマルヘルス社 サプリメント:「メイベットDC」
DHA/EPAなどの不飽和脂肪酸、酸化防止剤としてエリソルビン酸ナトリウム/カテキン/ビタミンEなどを含んだ認知症向けサプリメントです。投与開始2週間後くらいから効果が現れます。
- 抗酸化物質:サプリメント「コエンザイム Q10」
- その他の抗酸化物質:
ビタミン群(ビタミンA,ビタミンE,ビタミンC)、ルテイン、葉酸、ポリフェノール類などは有効である可能性がある。
(2)徘徊などの認知症の症状が出始めていれば、病状の進行を遅くする目的での認知症改善薬をメインにした薬物療法を開始します。
- 認知症改善薬(人医用):塩酸ドネペジル:「ドネペジル塩酸塩」など
この薬を「犬の痴呆症診断基準100点法」によって認知症と判断された犬12頭に投与したところ、1週間で10頭、2週間で全ての犬のスコアが改善したとの報告がありますので、初期(早期)の認知症には効果が期待できると思われます。
(3)夜鳴きなどの症状が認められる場合には、不安を解消し、睡眠を促す目的で抗不安剤を投与します。
- 抗不安剤:アルプラゾラム:「コンスタン錠」、ロラゼパム:「ワイパックス錠」など
不安を緩和して、睡眠の導入を促す目的で投与します。肝臓への負担は少ないのですが効果時間が数時間しかないのが欠点です。
- 抗不安剤:選択的セロトニン再取り込み阻害剤:パロキセチン:「パロキセチン錠」
不安が原因で夜中に家族を呼んで鳴いているよう症例に対して投与します。セロトニンとは脳内に存在する神経伝達物質の一種で、精神状態を安定させる働きがあります。また、睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン」の材料でもあるので睡眠にも影響します。選択的セロトニン再取り込み阻害剤は、主に脳内で神経伝達物質セロトニンの再取り込みを阻害し、セロトニンの作用を高めて不安状態を取り除きます。
- 日本全薬工業:サプリメント:「ジルケーン」
抗不安効果を示すミルク由来の天然成分カゼイン(α-カソゼピン)を含んだサプリメントです。
- ビルバックジャパン社:サプリメント:犬用分離不安治療補助剤「クロミカルム」
不安が原因で夜中に家族を呼ぶように鳴く症例(家族が声をかけたり、抱いてあげると、また寝るような症例)に対して利用可能です。
(4)夜鳴きが激しい重度の認知症の症例には、より積極的な治療が必要になります。まず、血液検査/血液化学的検査を実施し、肝臓/腎臓など薬物代謝の排泄機能を評価します。代謝・排泄機能に大きな問題がなければ、上記に示した薬剤に加えて、睡眠剤、睡眠導入剤などを処方します。
- 睡眠薬:「トラゾドン塩酸塩錠」
認知症の睡眠薬として現時点で推奨されている薬です。本来は抗うつ薬の薬ですが、投与量を調節することで睡眠薬として処方します。投薬量は症例毎に適切量が違うので、少量からスタートし十分な睡眠時間を確保できる個々の投薬量を見つけ出す必要があります。
- 導眠剤(人医用):リルマザホン塩酸塩水和物:「リスミー錠」
脳の活動(興奮)を抑えることで眠りやすくし、睡眠障害などを改善する薬です。作用時間は6〜10時間ほどと言われていますが、投薬量は症例毎に適切量が違うので、少量からスタートし十分な睡眠時間を確保できる個々の投薬量を見つけ出す必要があります。