動物の腫瘍のお話(その2)
リンパ腫の治療の基本は各種抗癌剤を使った「化学療法」と言われる内科的治療法です。人の腫瘍の治療に使われている何種類もの抗癌剤が犬のリンパ腫の治療にも用いられています。抗癌剤には、腫瘍に対して非常に効果がある反面、副作用のリスクも高い薬、逆に腫瘍に対しては充分に効果的とは言えないが、副作用のリスクが低い薬などいろいろなものがあります。 リンパ腫に対して積極的に治療する場合は、これらの抗癌剤の中で腫瘍をやっつける作用が異なり、副作用の発生場所の異なる薬を複数使う「多剤併用療法」が主流となっています。腫瘍に対する治療効果が高く、副作用のリスクも高い抗癌剤は単剤で使用される場合もあります。 以下に当院で使っている多中心型リンパ腫の化学療法の種類を示します。
4種類の抗癌剤を用いた最もスタンダードな化学療法です。リンパ腫の症例の70〜80%に症状を消失させることができ、良好な状態を5〜6 ヶ月維持でき、副作用も比較的少ないマイルドな化学療法です。
COP療法にドキソルビシンという強力な抗癌剤をプラスしたもの。症例の75%で症状を消失させ、良好な状態の維持も9ヶ月くらいに伸ばすことができます。
ドキソルビシンを3週間に1回のペースで、点滴に混ぜて投与する方法。症例の65〜75%で症状を消失させ、良好な状態は5〜6 ヶ月維持できます。
比較的新しい治療法で、4種類の抗癌剤を使って治療を開始後、症状が消失していれば25 週でいったん治療を終了します。症例の94%に何らかの改善が見られます。再発した場合は同じ治療を再開することで、再び症状の消失した状態に戻すことができます。
副作用のリスクが少なく、安価で自宅での投薬治療が可能な保存的な治療法です。数ヶ月間の生存期間が見込めることが報告されています。
これらの化学療法で一時的に良くなって、その後リンパ腫が再発した場合は、同じ治療を繰り返すか、違った薬剤/治療スタイルを使ってのレスキュー療法が存在します。それぞれの症例に応じた治療法を選択して諦めずに治療を継続することが大切です。
何らかの理由で積極的な化学療法を受けられない場合にも、ステロイドを中心としたお薬を与えることで一般状態を良好に保つことを目的とした治療や、副作用の少ない薬剤を複数用いた化学療法(当然、抗腫瘍効果は低いですが…)、抗腫瘍効果の期待できるサプリメント療法など、それぞれの症例とご家族の事情に合わせた治療法を提案し実施しています。
年齢12 歳5ヶ月、体重6kg、避妊手術済みのメスの雑種犬(右写真)。
「顎の下のところが腫れてきた」ということで来院。左右の下顎リンパ節、膝の裏側リンパ節の腫れを確認し、細胞診でリンパ球系の腫瘍細胞を確認(右下写真)した。複数の体表リンパ節の腫大も認められたので多中心型リンパ腫と診断した。
治療はドキソルビシン単独療法を選択し、治療開始8日目には体表リンパ節の腫れは消失(寛解)した。抗癌剤を5回投与し、治療を終了した。化学療法終了1年間後に背中の皮膚にしこりを見つけ、リンパ腫の再発と判断した。
再発に対してはCOP 療法を用いて治療し、7日後には腫瘍病変は消失し(再寛解)、COP 療法を継続した。
COP 療法開始後336 日目に再度皮膚への再発が見られた。
抗癌剤を増量して投薬する治療で対応したが7日後に死亡した。
この症例はリンパ腫と診断されてから814 日間生存し、そのうち腫瘍症状がなかった期間は776 日であった。(2005年獣医がん研究会で発表)