心臓の病気のお話(その2)
まず予防開始前にフィラリア症にかかってない事を血液検査(必要に応じて免疫学的検査)で確認します.フィラリア症に感染していなければ,蚊が感染能力を持ち始める5月より蚊が見られなくなった次の月まで(最近の温暖化傾向を考えれば12月上旬まで),毎月1回予防薬を与える事で愛犬を100%守る事が出来ます.
フィラリア予防薬とは,実際には体に侵入したフィラリア感染仔虫を駆除する事を目的とした薬ですので,駆虫薬と考えていただいた方が良いかもしれません.つまり,1ヶ月毎にフィラリア感染仔虫を駆虫することでフィラリア症を予防しているということです.だから,その年の最後の予防である11月〜12月上旬の投与を忘れると,10月に蚊に刺されたことで愛犬の体内に侵入したフィラリア感染仔虫を駆除できなくなり,翌春にはフィラリア症にかかっていると言う事も考えられます.ですから,11月〜12月上旬の最終投与は必ず忘れないようにしてください!
フィラリア予防薬は各メーカから,錠剤,粉剤,チュアブル剤タイプの経口薬と注射薬が提供されています.当院では錠剤タイプとチュアブルタイプの2種類を準備しております.
既にフィラリア症にかかっているものに対する治療法としては,その病態が軽度〜中程度のものであれば以下に示す治療法を行うことができます.しかし,心臓や肺の血管の変形がひどかったり,腹水の貯留が激しく内科的にコントロールができないような重症例においては積極的な治療を行うことができない場合があります.
急性型フィラリア症と言われる大静脈症候群(ベナキャバ・シンドローム)に対する緊急手術として行われることが多い治療法です.この手術は全身麻酔をかけ,首の所にある頚静脈から直接心臓に虫体を吊り出すための専用の鉗子を挿入して,右心室/右心房に戻ってきたフィラリア成虫をつかみ,体外に引っ張り出して排除するものです.フィラリア症という心臓病にかかっている動物に行うため,麻酔の危険性は高くなり術中や術後に死亡する可能性もあります.急性型のフィラリア症の発生が減ってきていますので,この手術が行われることも減ってきているようです.
メラルソミンというフィラリア成虫駆除用の薬剤を複数回,腰部の筋肉に注射する治療法です.心臓に寄生しているフィラリア成虫が注射後,一時期に死滅することによって,その死滅虫体が肺動脈の末梢血管に詰まる状態が発生します(残念ながらこの状態は避けることができません).そのため,心臓や肺の血管変形の激しい中程度以上の症例では治療を実施することが難しい治療法です.また,注射後,最低でも1ヶ月の厳重な運動制限(ケージレスト)が絶対に必要であり,充分な管理ができなければ死に至る場合もあります.また時に抗ショック対策の薬の併用も必要になります.この治療の実施にあたっては,厳重に管理する期間が長くなることが欠点となっているようです.
この方法は通常のフィラリア予防剤を36ヶ月間連続して投与する方法です.フィラリア予防剤を連続投与することで,新たな感染を防ぎながら心臓に住み着いているフィラリア成虫の寿命を短くさせます.フィラリア予防効果を得る最低用量で36ヶ月間投与すると,ほぼ100%の駆除が可能と言われています.この治療法を実施することで3年後には心臓や肺の血管の中にフィラリア成虫の存在しない状態となります.ただし,心臓や肺の血管の変形はフィラリア成虫駆除後も残ります.この治療法は安全性が高く,慢性型のフィラリア症の軽症から中程度の症例に対しては第一選択の内科的治療法だと思います.
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企画・編集 石堂動物病院