動物の腫瘍のお話(その3)
症例は6ヶ月齢の未避妊の雌猫で,「2〜3日前より元気・食欲の低下,昨夜より呼吸状態が変である」という主訴であった.
胸部レントゲン検査によって心臓前方に腫瘤塊を認め,同時に胸水も認められた.胸水の細胞診でリンパ腫を疑わせる腫瘍性リンパ球を認めた.血液検査においても腫瘍性リンパ球の存在が確認された.
猫のウイルス検査では,「猫白血病ウイルス感染症」は陽性,「猫免疫不全ウイルス感染症(猫エイズ)」は陰性であった.以上のことから,「猫白血病ウイルス感染症陽性の縦隔型リンパ腫」と診断した.
治療はCOP+L-Asp療法とした.化学療法開始約3週間後には,縦隔の腫瘤塊がなくなり心臓の形がはっきりと確認できるようになり(下図),血液中の腫瘍細胞も認められなくなった.この時点で寛解(腫瘍症状が消失)と判断し維持療法を続けた.
寛解から2ヶ月目(化学療法開始後86日目)の検査時に,心臓前方の腫瘍塊が再び大きくなっているのを確認した(再発).COP+L-Asp療法で再度,導入療法を実施すると2週間後には胸部の腫瘍塊は消失,約4週間後には血液中の腫瘍細胞も消失したので再寛解と判定した.
しかし,再寛解の2週間目(化学療法開始後140日目)には再再発を確認した.再度,各種抗癌剤を投与したがその反応は乏しく,放射線療法を考慮したが麻酔の危険性が非常に高いと思われたので断念した.最終的レスキュー療法として化学療法開始後157日目にドキソルビシンという強力な抗癌剤の投与を実施したが,その1週間後に死亡した.
この症例では亡くなる1週間前までは自力で食事をしており,化学療法を実施することで初診時から約半年にわたって,ある程度の良好なQOL(生活の質)を維持できた症例である.