アトピー性皮膚炎
動物において「痒み」を引き起こすアレルギー性皮膚疾患には,
などがあります.今回は「犬のアトピー性皮膚炎」に関して解説いたします.
アトピー性皮膚炎とは,遺伝的素因(アトピー体質)を持った動物において,原因となる物質(アレルゲン)に対して皮膚が過敏に反応した結果,痒み,発赤(皮膚の赤くなること)などを示すアレルギー性皮膚炎のひとつです.
慢性化すると二次的な細菌性皮膚炎などを引き起こし重度な皮膚炎を示します.
「アトピー」という言葉に適切な日本語訳がありません.「アトピー」=「敏感な肌を持った体質」と考えるとわかりやすいかもしれません.
日本でアトピー性皮膚炎の発生が多いと言われている犬種は以下に示すものです.
アトピー性皮膚炎の原因は「アトピー」=「敏感な肌を持った体質」ですが,様々な要因が複雑 に絡み合って初めて「痒み」という症状を発症します.
1)生活環境に原因物質(アレルゲン)が存在
2)動物の皮膚バリア機能の低下(防御力の低下に伴ってアレルゲンが侵入しやすくなる)
3)アレルゲンが体に侵入することによっての異常反応(アレルギー体質)
これらの3つが連続的に起こる事によってアトピー性皮膚炎は発症します.と言うことは,これらの1つでも防ぐことができたら,症状(痒み)を防げる可能性があると言うことです.
アトピー体質をもっていても,皮膚がどんなに弱くても,環境アレルゲンが存在しなければアトピー性皮膚炎は発症しません.
犬における主な環境アレルゲンとしては,
などがあります.
草や樹木の花粉に対しては,散歩から帰ってくるたびにシャンプーを行えば体表に付いた環境アレルゲンの数を減らす事が可能です.ハウスダストマイト,カビ類,昆虫の死骸などに対しては,抗ダニ/抗カビ用のカーペット・お布団を使用したり,高性能の抗ダニ/抗カビ用の掃除機や空気清浄機を使う事で室内環境を清浄化し,環境アレルゲンをコントロールすることが出来るかもしれません.
これらの対応をしても環境アレルゲンとの接触を100%なくすことは,現実的には大変難しい事だと思われます.
皮膚のバリア機能が弱くなると(防御力の低下),体表に付着した環境アレルゲンが体内に入り込みやすくなります.皮膚表面から体内に入った環境アレルゲンはアレルギー反応を誘発してアトピー性皮膚炎を発症させます.
正常な皮膚バリアを維持するに重要なものが皮脂膜と角質層の細胞間を満たす細胞間脂質であるセラミドです.皮脂膜は皮膚表面をしっかりと覆っています.セラミドは角質細胞どうしをしっかりつなぎとめています.皮脂膜とセラミドが外からの刺激(アレルゲンや細菌の侵入)や内からの水分の蒸散を防ぎ,皮膚のうるおい(保湿性)と皮膚の健康を支えています.
皮膚のバリア機能を弱くさせる一番の原因は皮膚(表皮)の乾燥と言われています.
様々な原因による皮膚炎やドライスキン(乾燥肌)が原因で,皮脂膜や角質層のセラミドに問題が生じる(バリア機能が低下する)と,皮膚内の水分がさらに失われ皮膚の乾燥は悪化し,外部からの刺激を受けやすい敏感な状態になってしまい、痒みを引き起こしやすくなります.
アトピー体質を持っている場合にはアトピー性皮膚炎を発症してしまいます.
皮脂膜や角質層のセラミドがしっかり存在するので,外部からの環境アレルゲンや細菌の侵入を防ぎます.同時に皮膚の保湿性を保ち,正常なバリア機能を維持します.
皮脂膜が崩壊し,セラミドが失われた角質層は角質細胞が変形してる状態では,皮膚内の水分が漏れ出し乾燥肌となります.表皮が乾燥状態の場合には,皮膚バリアは機能しません.そのような状態では,外部から環境アレルゲンや細菌が侵入しやすくなり,皮膚の乾燥はさらに悪化します.
アトピー体質は持って生まれた体質で,多くのアレルゲンに対して動物側の免疫反応のひとつであるIgE抗体という免疫グロブリンが産生されやすいという特徴を持っています.
この体質を正常なものへと変えることは非常に難しいと考えられています.
食事や体質改善(免疫強化)のサプリメントや減感作治療などによって,少しずつ改善させていくことは可能かもしれませんが,長い時間が必要と思われます.体質を改善するための長い時間,動物にはず〜っと「痒み」が存在します.この「痒み」は「生活の質:QOL」を低下させ,動物にとっては苦痛の時間となります.
この「痒み」を軽減するために,内科治療やシャンプー治療が必要になります.
アトピー性体質の改善/軽減と「痒み」のコントロールは平行して行わなければなりません.