アトピー性皮膚炎
動物には外部からの刺激(環境アレルゲン,細菌など)に対して防御機構として働く免疫というものがあります.アトピー性皮膚炎においては環境アレルゲンに対して免疫が過剰(異常)なアレルギー反応を起こして痒みという症状を引き起こしています.そこで,アレルギー反応に関わるランゲルハンス細胞,リンパ球,肥満細胞などの働きを抑制する免疫抑制剤(成分:シクロスポリン)を低用量で使う事で過剰なアレルギー反応を抑制し,アトピー性皮膚炎の症状をコントロールします.このお薬は症状を抑えることを目的としています.
免疫抑制剤は単独でもアトピー性皮膚炎の症状を軽減できますが,ステロイド投与で副作用が認められたりする場合に併用することで,ステロイド投与量を減らせる可能性があるので,ステロイドと併用して使われるケースが多いです.
シクロスポリンは,比較的高価で副作用が少ないお薬です.ただし,投与開始時に一過性の嘔吐,軟便〜下痢が見られることがありますが自然に治ります.また,5〜10年という長期間投与した場合の副作用に関しては,はっきりした報告がなされていません.
このお薬が有効かどうかの判定には約1ヵ月かかります.有効率は約70%と報告されています.1ヵ月投与しても効果が認められない場合は他の治療法を検討します.効果が認められた場合には,痒みがコントロールできている範囲内で投与間隔を延ばすことが可能です.
インターフェロンγ(商品名「インタードッグ」)は,アトピー性皮膚炎の犬の体の中で起こっているサイトカインバランス(免疫物質Th1 とTh2 のバランス)を調整して,肥満細胞からのヒスタミン放出を抑制することで痒みをコントロールする免疫を調節する免疫調節 剤です.
インターフェロンγも比較的高価で,副作用の少ないお薬です.主に難治性のアトピー性皮膚炎に対してステロイドと併用して使うケースの多いお薬です.このお薬は週3 回の注射が必要で,有効かどうかの判定に約1 月かかります.有効率は70%と報告されています.1 ヵ月使用しても効果が認められない場合は他の治療法を検討します.効果が認められた場合には,痒みがコントロールできている範囲内で注射の間隔を延ばすことが可能です.うまくいけば,投与中のステロイドを減量したり中止することもできるかもしれません.
減感作療法とは,アトピー性皮膚炎の原因となってる環境アレルゲンを特定して,そのアレルゲンを少量ずつ増やしながら何回か注射投与することで,体をアレルゲンに対して徐々に慣れさせ,最終的にそのアレルゲンに対してアレルギー反応を起こさない体質へ変えていく(減感作)治療法です.アトピー性皮膚炎の治療のほとんどが症状(痒み)を抑える治療ですが,減感作療法は体質を改善していく唯一の治療法と考えられます.
「アレルミューンHDM」は環境アレルゲンの中のハウスダストマイトが原因で痒みを示しているアトピー性皮膚炎の減感作治療薬です.まず,適応症例であるかどうかを血液検査で調べて,ハウスダストマイトが原因アレルゲンであることを確認します.適応症例であれば,抗ヒスタミン剤の投与を併用し,副作用が認められなければ,ほぼ1週間間隔で「アレルミューンHDM」を5〜6回注射投与します.治療後,一定期間(1年)痒みがコントロールできた症例は,6回注射投与したもので約70%であったと報告されています.
アトピー性皮膚炎を含んだ皮膚病に対してのサプリメントは,獣医学的に効果があると証明された必須脂肪酸を含んだ脂肪酸製剤のほかに,免疫調整剤的に作用するもの,発毛の促進と抗脂漏効果を示す亜鉛含有製剤,経口的なセラミド補給剤,抗炎症効果を示すハーブ系の製品など様々な製品が販売されています.
サプリメント製剤なので副作用の心配はありませんが,効果もその個体ごとに様々で予想が付きにくいのが正直なところです.まずは1ヵ月試してみてから効果を判定するようにしたら良いと思います.
環境アレルゲンの中で室内のアレルゲンと考えられるものとして,ハウスダストマイト,カビ類,昆虫の死骸などがあります.これらのアレルゲンに対しては室内の環境整備を行うことでアレルゲンとの接触を減らせる可能性があります.
具体的に示すとカーペットからフローリングに変えてみる,防ダニ/防カビ用のお布団にする,高性能の掃除機・空気清浄機などを用いるなどです.どれだけ効果が認められるかは解りませんが,やってみて損はないと思います.
アトピー性皮膚炎は遺伝的素因(アトピー体質=敏感な肌を持った体質)が関わる病気ですので,完全に「治す」ことは難しいと言われています.しかし,ワンちゃんの生活環境の改善と適切な治療,スキンケアによって痒みはコントロールできるはずです.そのためには,ある程度の費用と時間,ご家族の手間がかかるかもしれませんが,大切な家族のひとりであるワンちゃんが快適な生活を送れるように,この病気とうまく付き合っていきましょう!
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