アトピー性皮膚炎
皮膚バリア機能の低下した状態では,ハウスダストマイト,花粉,カビなどの環境アレルゲンが皮膚内に侵入しやすくなります.皮膚内に侵入したアレルゲンは,免疫細胞のひとつであるランゲルハンス細胞に取り込まれます.環境アレルゲンの情報を持ったランゲルハンス細胞は近くのリンパ節へ移動します.リンパ節内でB細胞性リンパ球から分化した形質細胞によって,IgE抗体という免疫グロブリン(生体の防御機構を担う免疫物質)が作られます.IgE抗体は皮膚に多数存在する肥満細胞に付着し,皮膚で環境アレルゲンの侵入を待ち構えています.
この状態で,次に環境アレルゲンが皮膚に浸入してきた時に,IgE抗体と環境アレルゲンが結合し,肥満細胞の活性化が起こります.活性化した肥満細胞は,細胞内部の様々な炎症物質を放出します(脱顆粒).アトピー性皮膚炎において重要な炎症物質となるのがヒスタミンです.
ヒスタミンの放出により,血管の透過性の亢進がおこり,炎症細胞が皮膚に集まってきます.その結果,皮膚の痒み,発赤,浮腫などの症状を引き起こします.この一連の反応がアレルギー反応(T型過敏症:即時型)です.
アトピー性皮膚炎の多くは若齢の犬に発症します(約70%が3歳以下,約85%が5歳以下). 主な症状は激しいかゆみや皮膚の赤み(紅斑:こうはん)などで,それらが眼周囲,耳,脇の下,お腹〜内股領域,足の先端・足裏などに起こります.
アトピー性皮膚炎の初期には季節性があり,発症し始めの頃には,春だけ痒がるなど,ある季節・期間にのみ痒みが認められます.その後,時間の経過とともにだんだんと痒みが慢性化して,1年中痒がるようになります.
慢性化すると,痒みによって皮膚を噛んだり舐めたりして傷つけての二次性の膿皮症による湿疹が見られようになったり,外耳炎や結膜炎などの合併症を示すものもあります.慢性化した皮膚症状としては,脱毛,掻きむしった時にできる掻破痕(そうはこん),紅斑,色素沈着,皮膚が厚ぼったくなる苔癬化(たいせんか)などが認められます.