「猫の膀胱炎」のお話
あなたの猫ちゃんが、「この頃、おトイレに行く回数が増えた。でも、おしっこの量はちょっとだなぁ?」と感じることはありませんか?もしかすると、それは「膀胱炎」という病気のサインかもしれません。膀胱炎は猫にとって、特に冬場に多く認められる一般的な病気のひとつです。今回は猫の膀胱炎についてお話します。
膀胱は腎臓で作られた尿を一次的に貯めておく臓器で、尿がいっぱいになって膀胱が大きくなると尿意を感じて排尿します。つまり、膀胱は大きさを変化させることで排尿を調節する機能を持っています。また、猫は砂漠で進化してきた動物で、水を飲む量が少なくても生きていけるように、血液中の有害物質を排泄するために尿を濃縮し、水分の再吸収を効率的に行うことで体内にある水分を大切に使っている動物です。このような特性から、猫は腎臓病や膀胱炎などの泌尿器系の病気が多い動物と言われています。
膀胱炎は何らかの原因によって、膀胱粘膜に炎症が起きる病気です。膀胱粘膜の異常により、尿を一次的に貯めておく機能(蓄尿)や排尿の調節が上手くできなくなり、頻尿や血尿などの症状を示すようになります。
正常では膀胱内に細菌は存在していません。何らかの理由で細菌が外陰部(尿道口)→尿道→膀胱へと侵入して、膀胱内で増殖することで膀胱炎となります。原因となる細菌は、大腸菌(肛門周囲に存在する)である場合がほとんどです。膀胱内で細菌が増殖することで膀胱粘膜にダメージを与えるので、いろいろな症状が生じてきます。メス猫は、尿道が短く太いので細菌の侵入が容易であるために細菌性膀胱炎が起こりやすいと言われています。
また、「ウレアーゼ産生菌」と呼ばれる細菌が増殖すると、尿中の尿素を原材料とし二酸化炭素とアンモニアを作り出し、尿をアルカリ尿にさせ「ストラバイト」と呼ばれる結晶を出現させます(細菌性膀胱炎の尿にストラバイト結晶が見られる)。この結晶が膀胱炎の悪化因子のひとつとなります。単純性の細菌性膀胱炎が起こる頻度は思っている以上に少なく、後述の2つの膀胱炎が原因で二時的に細菌感染が起きてしまうことが多いと思われます。10歳を超える猫では細菌性膀胱炎の発生は増えてきます。
持って生まれた体質の問題や食事内容、生活環境のストレスなどから、尿の性状(pH)や尿に溶け込んだ成分に変化が生じ、尿結石や尿結晶ができてしまいます。これらの結石/結晶が排尿のたびに膀胱内を移動することによって膀胱粘膜を傷つけるために膀胱炎が発生します。オス猫の場合、結石/結晶や膀胱炎で生じた炎症産物や凝血塊などがペニスに詰まってしまい尿道閉塞を生じる場合もあります。
近年、新しく提唱されている病気が「猫の特発性膀胱炎」です。この病気は、発生する原因がはっきりしていないことが特徴で、いくつかの要因が関係していると考えられています。そのひとつがストレスの関与です。気軽にトイレで排尿できない条件、例えばトイレが汚れている、他の猫が同じトイレを共用していて自身のタイミングで排泄ができない、といったことが挙げられます。「猫の特発性膀胱炎」は尿検査によって細菌が検出されることはなく、また尿中に結石や結晶といったものも検出されません。
「猫の特発性膀胱炎」は比較的若い猫で多く見られる傾向があり、性別による差はないと言われています。猫の膀胱炎の約半分がこの「猫の特発性膀胱炎」にあたるとも言われています。