「猫の膀胱炎」のお話
「猫の特発性膀胱炎」は近年に提唱され、この病気の詳細がより詳しく解説されるようになりました。「猫の特発性膀胱炎」は、外陰部からの細菌感染による細菌性膀胱炎や、ストラバイトやシュウ酸カルシウムなどの結晶が原因となる膀胱炎などとは異なる原因で膀胱炎症状(血尿・頻尿など)を示します。尿検査(ペーパー検査/尿沈渣検査)などで、細菌や結晶が認められないにも関わらず、膀胱炎の症状(主に血尿)を示すものが「猫の特発性膀胱炎」です。
この病気は10歳以下の猫での発生が多く、排尿異常を示す猫の約6割が「猫の特発性膀胱炎」であるとも言われています。
「特発性」とは原因不明の病気につけられるものなのですが、この病気の発生メカニズム(原因/要因)が近年わかってきました。
尿は体内の有害物質を腎臓で濾過して作られた液体です。これらの尿は膀胱に一時的に貯められます。飲水量が少なく排尿回数が少ない場合は濃い尿となり、その結果、尿中の有害物質濃度も高くなり、膀胱粘膜が有害物質に晒されている時間が長くなります。健康な膀胱粘膜の表面には、グリコサミノグリカン層と呼ばれるバリア機能を持った層が存在し、膀胱粘膜に細菌が付着しないようにして細菌性膀胱炎を防ぎ、また尿中の有害物質から粘膜を守っています。
しかし、特発性膀胱炎の猫では、この層が薄い/壊れている、または、一部欠損していることが多いと言われています。この層に問題があると、その部位から有害物質が膀胱壁内に侵入し、炎症を引き起こし膀胱炎を発症させます。また、膀胱壁の知覚神経を刺激することで排尿痛を引き起こします。
健康な猫では、強いストレスに対して体が過剰に反応しないように、脳は内分泌ホルモン(脳の視床下部から分泌されるACTHや副腎から分泌されるコルチゾールなど)を分泌して防御するシステムを持っています。特発性膀胱炎の猫では、ストレスに対して一時的にこれらのホルモン分泌反応がなく、ストレスに対して過剰に反応します。その結果、交感神経系が活性化され、膀胱壁内の肥満細胞を活性化して炎症を助長し、膀胱炎をさらに悪化させます。
オス猫で特発性膀胱炎が発症した場合には、膀胱だけではなく尿道にも尿道炎を生じ、尿道のけいれん、浮腫/出血を引き起こし、尿道が狭くなり、狭くなった部位で栓子(膀胱粘膜の残骸、白血球、赤血球が固まったもの)や結晶が詰まって二次的閉塞(尿閉)を引き起こす事もあります。